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カスピ海原油が脚光を浴びて不思議はない。
いち早くこうした状況に反応したのはやはりアメリカだった。
アメリカのエネルギー省がカスピ海周辺の石油埋蔵最を約二千億バレルと推定する。
現時点の確認埋蔵量は約二百億バレルというのが一般的だから、かなり水増しともいえなくもないのだが、アメリカとしてはこの地域がロシアを牽制する意味で戦略的に重要とする国際政治的な意図があったという見方もできる。
あるいはアメリカの国際石油資本が背後から働きかけた結果という見方もまちがいとはいえないだろう。
人権外交から資源外交への転換という見方も否定できないのだ。
いずれにしても、アメリカが前而に出てきたことで、カスピ海に火が付いた形となった。
もっと正確に表現すれば米系メジャーが開発の的をカスピ海周辺に絞ったといった方がいいのかもしれない。
むろん、歴史的にはむしろ開発の主役的存在だった欧州系メジャーの存在を粧視はできない。
「カスピ海開発にBPあり」という言葉がある。
これは目下のところは北海油田で潤うBPが企業の命運をかけて、このカスピ海開発に乗り出しているということを示す言葉だ。
背景に北海油田の将来の限界がかなり明確になり始めてきたという事情がある。
BPとしては北海油田に代わる油田確保がどうしても必要だったというわけである。
その証拠にAIOCの筆頭株主に、BPはアメリカのメジャー-AMOCOと並んでいた。
カスピ海はアメリカの傘下という印象が強いが、BPというイギリスのメジャーがしっかりその地位を確保していた。
「BPにとってカスピ海は第二の北海油田」という言葉もこの辺の事情を雄弁に物語る。
BP以外でも、イギリス勢はカザフスタンでBGがガス田開発の資本参加、後発となったとされるトルクメニスタンでも、モニユメント石油・ガス会社がネビダグ資源開発に資本参加しており、静観してきたメジャー・トップ・ツーのロイヤル・ダッチ・シェルも大きく動き出そうとしているとされる。
そしてこの事態はさらに世界に衝撃を与える状況に発展する。
このAIOCの筆頭株主同士が合併したのだ。
この結果、カスピ海開発の勇、AIOCは英米二国による支配ではなく、BPAMOCOの合併会社によって、コントロールされることが決まった。
これまでメジャーはトップ・ツーといわれ、シェルとエクソンが文字通りのメジャー、他はマイナーとされていたのだったが、今回のBP・AMOCOの合併で、三大メジャーの時代が始まり、その中核にカスピ海があるという石油業界にとって目を離せない事態になってきているといえるだろう。
BPはこうした開発面での強化と同時に、日本を中心にアジアの精製・販売部門にも関心を高めているとされるだけに、カスピ海開発が日本にも無縁ではなくなってきたということもできる。
当然、ここで豊富な資源を失った形となったロシアのスタンスを視野に入れておかなければならない。
カスピ海は欧米に聞かれ、「模」を打ち込まれた形の旧ソ連・ロシアが心安からぬことは想像にかたくない。
技術と資金さえあれば、外貨獲得にどれだけ貢献してくれたか計り知れないカスピ海が、旧敵である欧米資本に探醐される状態を手放しにしておくことはできない。
目下はその政治的側面を薄めているとはいっても石油が政治商品である側面が失われたわけではないからだ。
ロシアが単純に開発のパートナーとしてどこまで信頼できるのか。
ロシアは民族問題、パイプラインのルート、さらにはカスピ海の領有問題などで、複雑かつ巧妙に問題を仕掛ける材料・カードにこと欠かない。
カスピ海に面する国は、歴史的にも知られたパクー油田を持つアゼルバイジャン、それに有名なテンギス油田があるカザフスタン、さらには天然ガスの有望なトルクメニスタン、加えてロシアにイランの計五か国となる。
「世紀の契約」はこのなかのアゼルバイジャンに関わるものだが、契約の結果生まれた石油会社であるAIOCの資本構成が争奪戦の一面を浮き彫りにしている。
最も多いのは合併したBPAMOCO、最も少ないのはサウジアラビアのDELTAだが、これにロシア資本、ノルウェー資本、トルコ資本が参加、日本も辛うじて伊藤忠商事が顔出ししている。
そして極めて重要なことは当事者であり主役のアゼルバイジャンは民族資本SOCARが一〇%占めているに過ぎないことだろう。
これから読み取れることは、その資本構成の国際性とアゼルバイジャンの思い切った資源開放政策である。
資本構成国は八か国に達する多彩さであり、また、アゼルバイジャンは九割を外国資本に開放するという、資源固としては珍しい開放的姿勢を示している。
アゼルバイジャンの資本開放はいかにアゼルパイジャンが独立の結果、病弊した経済の復興に懸命であるかを示すものであり、その八刀、ここに旧西側の付け入る十分な余地があったともいえるわけだ。
この国際グループ会社AIOCのパクー沖合油田は、九七年末からパイプラインを使つての輸送が開始されている。
カスピ海原油が国際石油市場に大きく関与し出してきた。
カスピ海の火は幻ではなかったのだ。
しかし、カスピ海資源の状況はパラ色とばかりはいえない。
そのひとつが輸送問題だ。
カスピ海は市場に直結していない。
パイプラインで市場に結び付く地点まで輸送しなければならない宿命に。
ところがそうなると複雑な問題が出てきてしまう。
パクー沖合油田の輸送ルートは今、二つある。
ひとつはロシアを経由する北方ルート。
そしてもう一本はグルジアを経由する西方ルートだ。
それに生産が本格化した場合には、もう一本のルートが必要だが、ルートは未定だった。
すでに北方ルートによる輸送は九七年末から始まったが、このラインはパクーからチェチェンを通過して、ロシア・黒海のノボロシスクに至る全長千四百キロ。
輸送能力日量十万五千バレル。
一方、西方ルートはパクーからグルジアのスプサに至る全長九百キ口、輸送能力は同十万バレル。
問題は関係国が多く、輸送の安全性に不安感が付きまとっていることだ。
民族問題などを抱えており、ロシアが結果的に様々な形で影響力を持っていることは否めない。
どうしてももう一ルート必要だ。
実は経済的にはイランルートが最適だった。
ペルシャ湾に繋がれば、需要が急増するインド、東南アジアに海上輸送で直結する。
しかし、ここでアメリカの中東戦略であるイラン、イラク封じ込め政策が障害となる。
実はアメリカがカスピ海重視を明らかにした背景には、このイランルート阻止という極めて現実的な要請があったことも見逃せない。
結局は第三のルートは西方ルートの途中からトルコを貫通、地中海のセイハンに出るというルートが有力となり、決着した。
このルートはその輸送能力、日量七十万バレルで本格的輸出用となる。
このほか、パイプラインについてはカザフスタンのテンギス油田からロシアのノボロシスク、トルクメニスタンからアフガニスタン経由パキスタンへのルートやカザフスタンから中国向けのルートの計画などもあり、そのルートを巡る駆け引きも激烈で、資源戦争ならではの側面を見せている。
当然、直接の当事国の関係も単純ではない。
それはカスピ海の定義の問題に端的に表れてきている。
問題は簡単だが、解決は複雑といっていいのが、この問題。
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